Oxfordで、GLP-1を研究していた糖尿病専門医が、肥満治療を考えます。

肥満の外科治療

 

そもそも肥満者は麻酔するだけでもハイリスク

 

外科手術である以上、胃の縮小手術、脂肪吸引のいずれをするにしても、麻酔が必要になります。局所麻酔であっても、肥満があるとそのリスクは高まります。その理由について書いてみます。

 

針をさすのが難しい

肥満者では、厚い皮下脂肪に覆われて血管が見えないため、点滴や注射がしにくく、緊急の場合に処置が遅れる可能性があります。また、皮下脂肪のため、トラブルがあっても発見が遅れやすくなります。脊椎麻酔をする際も、目安になる背骨の位置がわかりにくく、事故が起きる可能性が比較的高くなります。

 

呼吸、循環器のリスクが高い

肥満があると、口から肺までの空気の通り道である気管が脂肪で圧迫されており、腹部の脂肪で肺が拡がりにくくなるため、呼吸器系の余裕がありません。心臓も同様に圧迫されているうえ、標準体重の人と比べ、送り出さないといけない血液の量も多いため、こちらも負担が大きく、やはり余裕がありません。高血圧や心臓病を合併していることも多く、低酸素が起きるリスクは高くなっています。

 

麻酔が効きにくく、覚めにくい

麻酔薬は主に脂質でできている脳神経に作用する必要があるため、脂肪に溶けやすくなっています。当然、体脂肪にも拡散するため、体脂肪の多い肥満者では必要な麻酔薬の量が多くなり、効果が出るまでの時間もがかかります。さらに、麻酔を覚ます際も、体脂肪から麻酔薬が抜けきるまでに時間がかかり、覚醒に時間がかかります。また、麻酔薬の量を計算する際、実際の体重で計算するものと、理想体重で計算するものがあり、非常に複雑で、実際はどちらで計算してもうまくいかないことから、麻酔科医の技量と経験に頼ることになりがちです。

このように、肥満がある時点であらゆる手術のリスクは高くなっています。

 

 

 

 

メタボリック手術

胃や腸を部分的に切除することで、食事の量を強制的に減らしたり、吸収を悪くしたりすることで体重を減らす手術です。主にアメリカで行われていますが、日本でも、2014年4月に腹腔鏡下スリーブ状胃切除術が保険適応となりました。その適応は、

 

年齢が18歳から65歳までの原発性(一次性)肥満で、6か月以上の内科治療で十分な効果が得られず、次のいずれかの条件を満たすもの。

1) BMI35以上である

2) BMI32以上で併存疾患(糖尿病、高血圧、脂質異常症、肝機能障害、睡眠時無呼吸症候群など)を2つ以上有する

となっています。

 

さらに、施設基準が厳しく、できる病院はかなり限られます。

 

多くの研究で、1年間で平均30%前後と大幅に減量でき、全死亡率も35歳以上であれば30-50%程度下げるという報告があり、一定の成果をあげている治療法といえるでしょう。

手術により、GLP-1が増えることがわかっており、体重減少や血糖値の改善に寄与していると考えられています。

 

一方、手術ですので、一定の確率で周術期の合併症が起こります。13万人の術後1か月後の再入院率は術式により異なるものの全体で4.4%と、5人に1人以上が重篤な合併症を起こしていることがわかります。

http://journals.lww.com/annalsofsurgery/Abstract/publishahead/Prevalence_and_Risk_Factors_for_Bariatric_Surgery.96325.aspx

合併症のリスクは施設間で大きなばらつきがあり、術者の技量に左右されるようです。死亡率は0.1%以下とされていますが、これも、術者の技量によります。

 

特に若年者には向いておらず、35歳未満で手術を行った場合、むしろ死亡率が上がり、たとえ一時的に体重減少が得られても、適応力の高さからかリバウンドしやすくなります。

 

また、精神的な問題が悪化する可能性が指摘されています。精神的なストレスを、食べることで代償していたケースであれば、当然起こってきます。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26363716

 

肥満手術は強力な効果が期待できる一方、相応のリスクが伴うという、ハイリスク・ハイリターン型の選択肢です。肥満による害が非常に大きく、命にかかわるような場合に限り、最後の手段として行う治療です。

 

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脂肪吸引

 

お腹についた脂肪を切り取ってしまいたいと思ったことがある人は少なくないでしょう。実際、外科的に脂肪を吸い取る脂肪吸引や、超音波、ラジオ波、凍結、脂肪溶解注射などの方法で脂肪細胞を破壊する方法が存在します。

http://biyou-iryou.jp/catalog/detail/108/

しかし、人間の体というのは非常に複雑にできており、こういった物理的なダメージに対して予想外の反応をします。

 

 

脂肪吸引は体重を減らさない

脂肪吸引は減量手術ではありません。どうやっても落ちない脂肪を吸い取ってしまうのは一見、根本的な解決であるように思えます。しかし、外科的に脂肪を切り取っても体重はほとんど減らないことは、外科医も認めているところです。脂肪があった部分は水分に置き換えられ、炎症も起こることから、体重が増えることもありえます。

結局、脂肪切除をしても1年後には体重が戻ってしまいます。

内臓脂肪に至っては、増加する傾向があります。

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1038/oby.2011.64/epdf

 

 

代謝が悪化する

脂肪吸引は体にとっては間違いなく物理的ダメージであり、代謝に有害であると断言できます。実際、脂肪吸引後の血液検査では、吸引した部位にかかわらず、超善玉ホルモンといわれるアディポネクチンは有意に減少、炎症性ホルモンのTNF-αやインターロイキンなどは6ヶ月後も有意に高値でした。つまり、脂肪吸引は、脂肪細胞が担う有益な作用を減らすうえ、炎症による有害な作用をむしろ増やしているわけです。こういった代謝への悪影響は、脂肪吸引に限らず、すべての脂肪破壊系の施術には少なからず起こっていると考えられます。

 

重大な合併症リスク

日本で年間何件の脂肪吸引が行われているのかさえ不明ですが、侵襲の大きい外科手術なので、合併症はかなりの確率で起こっているはずです。

脂肪塞栓は多かれ少なかれ必ず起こりますし、血管を吸い込むので、皮膚が壊死する可能性も納得できます。循環器系への負担は半端ではないはず。

死亡事故として、脂肪塞栓や、肝臓の一部を吸ってしまったなどというのは内科の私も聞いたことがあります。

 

FDAも言っていますが、死亡した人も「自分にはそんな事故は起こらない」と考えていたはずです。検討している人は多いようですが、0.1%という数字をよく考えてから決断してください。

重藤誠 by
しげとう・まこと●医学博士。日本内科学会認定内科医、日本糖尿病学会認定糖尿病専門医。亀田総合病院、オックスフォード大学正研究員などを経て、2016年9月に開院。GLP-1に関する論文が国際科学雑誌に掲載されるなど、業績多数。国立滋賀医科大学の客員講師も務めている。

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