ダイエットといえば、カロリー制限を思い浮かべる人が多いはずです。日本の医療機関でも、栄養指導は「食品交換表」を用いた、カロリー制限食の指導を意味しています。糖尿病、肥満のガイドラインでも、カロリー制限食が推奨されており、その地位には疑いが無いように思われます。実際、私も総合病院での糖尿病専門外来では、「糖尿病食1600kcal」などといった指示をだしています(こんな考えもあるので、参考程度にきいてくださいね、とはぐらかしていますが)。
ところが、カロリー制限を指導しても、体重をコントロールできる人は、ほとんどいないのが実情です。科学論文では、たしかにカロリー制限で、短期的に体重は減ります。しかし、そのわかりにくさ、苦しさから継続率は低く、多くの人にとって、現実的ではない方法であることも事実です。ガイドラインの根拠とされる論文なども、規模、観察期間を考慮すると、長期的に続けて効果が高い方法とは言い難いでしょう。
カロリー制限がうまくいかない原因として
①食品が何kcalなのかがわからない
②空腹感をがまんしなくてはならない
③栄養不足になりやすい
の3点があります。
まず、すべての食品のカロリーを覚えるのは、よほどの勉強好きでもない限り不可能です。人間は、興味のあることしか覚えられませんし、忙しい現代人には、そもそもその時間がありません。
しかも、カロリーという概念自体がはっきりしておらず、専門家が同じ食品をみても、その数値はばらつきます。当然、自分の都合の良いように評価するため、肥満者では実際の摂取カロリーの4割も過小評価するという報告があります。
次に、食べる量自体に制限があるため、空腹感があるのに、それ以上食べられないという、強烈なストレスを伴います。数か月程度であれば我慢できるかもしれませんが、一生続けるにはつらすぎます。
また、食べ物をカロリーという数値に置き換えてしまうと、食の歓びが減ってしまい、脳の満足度が下がって、余計に空腹感が出てしまうと思います。食べ物を数字に置き換えること自体、食べ物を冒涜しており、生命をいただくという意識を薄れさせている一因にもなっているかもしれません。
最後に、カロリーの範囲内であれば何を食べても良いという自由度の代償として、栄養不足になりやすいという点です。簡単に食べることができ、比率が増えがちな加工食品は、ビタミンやミネラルなどあまり含まれていません。実際、カロリー制限により、貧血や骨粗鬆症が増えることがわかっています。筋肉量も減りますし。
以上の理由から、私のクリニックでは、カロリー制限は指導していません。
カロリー制限は、できるのであれば、寿命延長効果や病気の予防効果もあり、健康に有益な方法であることには間違いありません。しかし、われわれは、実験室のサルのように、食事の量を完璧にコントロールされているわけではありません。