鉄は生命の機能に関わっている重要なミネラルです。
すべての生命が、呼吸やエネルギー産生に利用しています。
鉄は、赤血球の中にあるヘモグロビンの材料です。
体内に鉄は3-5g程度存在しており、その7割は赤血球に含まれます(残りは肝臓)。
また、ミトコンドリアでのエネルギー産生にも鉄は必須です。
鉄はミトコンドリア内での酸化還元反応の触媒に関わっています。
ミトコンドリアはヘム鉄や、鉄・硫黄クラスターなどの合成もしています。
貧血とは、血液一定量あたりの赤血球またはヘモグロビンが少ない状態です。
さまざまな原因の貧血がありますが、ほとんどの貧血は鉄不足が原因の鉄欠乏性貧血です。
特に、妊娠可能年齢の女性は、生理で血液を失うので、貧血になりやすくなっています。
男性、閉経後の女性では、貧血の頻度は低く、2%程度ですが、妊娠可能年齢の女性だと25%に貧血があるとされています。
これは、先進国の中で最悪です。
貧血までいかなくても、わが国の鉄欠乏の状態は深刻です。
ある調査では、日本人女性の過半数が鉄欠乏状態と報告しています。
貧血の自覚症状は、
疲労感、無力感
めまい
動悸、息切れ
冷え性
風邪をひきやすい
など
です。
他覚的には
皮膚の蒼白
舌炎
スプーンネイル(匙状爪)
異食症
嚥下障害
などの所見が見られます。
どんどん血液を造らないといけない成長期の子供で、
学校成績の低下、認知機能、発達遅延などの原因になっていることがあります。
妊娠中は胎児の血液も造らないといけないので、鉄の必要量は通常の2倍になります。
妊婦の3~4割に貧血症状がみられます。
出血などの原因で貧血が急速に進行すると、症状は出やすくなります。
しかし、慢性的な貧血は、体が徐々に慣れるため、全く症状が無くて気づかないことも少なくありません。
貧血は、採血してヘモグロビンを測ることで診断できます。
鉄欠乏性貧血だと、赤血球の大きさが小さくなり、色素が薄くなります。
また、鉄が足りない状態だと、体は全力で鉄を取り込もうとします。
そのため、血液の中にある鉄を運ぶたんぱく質(トランスフェリン)が増えます。
また、肝臓でつくられるたんぱく質、フェリチンが減ります。
フェリチンは、鉄を貯蔵するためのかごのようなもので、体内の貯蔵鉄の量を反映しています。
貧血の治療のときに、体にどの程度、鉄のたくわえができたのかを見る指標になります。
私は糖尿病、生活習慣病が専門ですが、内科医の中でも貧血にはかなり注意しています。
血糖コントロールの指標でヘモグロビンA1c(HbA1c)というものがあります。
これは、ヘモグロビンの一部(サブユニットのひとつ)で、糖化されやすい性質があります。
周囲の糖の濃度(血糖)に比例して糖化され、直近2か月程度の血糖値の平均を反映しています。
このHbA1cは、貧血があると低く出てしまうので、常にヘモグロビンを見ています。
あれ?急に血糖が良くなった?と思ったら消化管出血だった、ということもあったりしますので。
また、クリニックでダイエット治療をしていても、鉄が足りない人が多いことに驚かされます。
食事の内容でだいたいわかりますが、明らかな症状、所見が出ていることも珍しくありません。
女性の比率が高いことに加え、食事制限型の偏ったダイエットをしてきた人が多いからでしょう。
なかには、氷をいつもかじっている(異食症)人もいました。
鉄欠乏性貧血の場合、経過がものすごくわかりやすいです。
鉄は補充すると、貧血が原因だっただるさや冷え症などが、数日の単位で改善します。
異食症も、当院の治療をはじめた翌日から消えました。
GLP-1受容体作動薬の効能書きに書いてある副作用のひとつに貧血があります。
これは、食事摂取量が減ることにより、鉄が不足して起こる鉄欠乏性貧血です。
当院の基本治療に入っているミネラルサプリメントは、天然鉱石が原料です。
主な成分は鉄とマグネシウムで、検出できるものだけで70種類ほどのミネラルが含まれています。
貧血は完全に予防できる副作用ですので、当院の治療で起こることはありません。