Oxfordで、GLP-1を研究していた糖尿病専門医が、肥満治療を考えます。
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鉄と免疫

 

前回も触れていますが、鉄欠乏になると、感染に弱くなります。

 

病原体(細菌、ウイルスなど)の最初の障壁は皮膚です。

皮膚は主にコラーゲンでできています。

コラーゲンは、たんぱく質、ビタミンC、鉄が材料になります。

このいずれが不足しても、皮膚の感染防御能力は低下します。

 

体内に侵入した病原体は、まず自然免疫系で処理されます。

 

 

 

自然免疫は生まれつき備わっている免疫です。

病原体に対してすぐに反応できます。

病原体と遭遇して学習したものではありませんので、獲得免疫ほど強力ではありません。

具体的な動きは、好中球やナチュラルキラー細胞による、直接的な攻撃です。

好中球は血液中の白血球です。

感染に対して最初に防御を行う免疫細胞の1つです。

食細胞として、病原体を捕食します。

好中球は、これらの病原体を殺したり消化したりするのを助ける酵素「ペルオキシダーゼ」を持っています。

このペルオキシダーゼが、病原体を殺す成分を作るときの補因子として鉄が必要になります。

鉄イオン(Fe3+)を触媒にしてフリーラジカルを発生させて細菌を殺しているわけです。

鉄が足りないと、最初に病原体と交戦するための武器がつくれなくなってしまうのです。

これが自然免疫低下の理由のひとつです。

 

獲得免疫の目的の一つは抗体をつくることです。

抗体さえあれば、強力かつ特異的に病原体が排除できます。

抗体はB細胞によってつくられます。

そのB細胞を教育する、いわば司令塔になるのがT細胞です。

鉄が不足すると、T細胞の成熟などを行っている胸腺の萎縮が起こります。

基礎研究でも、鉄はリンパ球の分化、増殖に必要であることがわかっています。

また、ミトコンドリア内でのエネルギー産生に必要です。

免疫細胞を含めたすべての細胞のエネルギー産生が悪くなります。

 

 

このように、 鉄欠乏症は、自然免疫(もともと持っている抵抗力)および獲得免疫(感染により獲得した抵抗力)両方低下に関連しています。 (https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20589461/)

 

鉄欠乏が免疫に悪影響を及ぼすのは間違いありません。

 

しかし、鉄過剰でも免疫に悪影響があります。

 

鉄が酵素反応で発生させるフリーラジカルは、病原体だけでなく、われわれの細胞にとっても毒性があります。

過剰鉄は酸化ストレスを増加させ、この増加した酸化ストレスにより、免疫細胞、血管内皮などに、組織毒として働きます。

 

 

感染してしまった後は、鉄が少ない方が有利ということもわかっています。

 

鉄はすべての生物にとって重要なミネラルです。

当然ながら、細菌も鉄が大好きです。

腸では、腸内細菌と宿主で、鉄の奪い合いが起きています。

体外の実験でも、乳酸菌、ビフィズス菌に鉄イオンを与えると、増殖速度が倍になります。

しかし、病原体もそれは同じです。

特に、病原性のある溶血性連鎖球菌は、赤血球を破壊し、その中の鉄を食べることで増殖します。

鉄が多すぎると病原菌の増殖も促進されてしまうのです。

感染して発熱すると、炎症性サイトカインにより、腸からの鉄吸収が減ります。

これはおそらく、組織の鉄を減らして病原菌に鉄を与えないようにするためと考えられます。

人間は、鉄を利用して免疫細胞を活性化すると同時に、組織の鉄濃度をギリギリまで低くすることで、組織毒性を最小限にすると同時に細菌の繁殖を抑えているのです。

 

最後に、サプリメントに関する注意です。

サプリメントなどで鉄を摂った場合、腸内の鉄濃度が上昇します。

ほどほどであれば、腸内細菌のエサとして良いかもしれません。

しかし、サプリメントの量や腸内細菌のバランスによっては悪影響を及ぼす可能性があります。

実際、複数の研究で、鉄のサプリメントによって感染症のリスクが上がることが報告されています。

鉄剤や鉄のサプリメントを使う際は、かなり注意が必要です。

 

一般に、日本人女性は鉄不足なので、適切な鉄の補充は感染対策になります。

しかし、過剰な投与は、組織毒性で老化を促進したり、腸内環境を悪くしたりしてしまう可能性があります。

特に、感染してしまった状態で鉄を摂るのは逆効果になる可能性が高いです。

 

当院のミネラルサプリメントは、鉄が比較的多く含まれています。

鉄が過剰になると、腸内細菌のバランスを崩す可能性がありますが、ビタミンC、食物繊維と同時にとることで、その悪影響がなくなることがわかっています。

ビタミンCと食物繊維は主に、便秘対策として入れていますが、ミネラル類の吸収の調整も期待して組み合わせています。

当院治療は、こういったことも考慮したうえで、効果の最大化とリスクの最小化をはかっています。

 

次回は鉄の吸収を悪くする食品についてです。

 

 

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この記事を書いた人
しげとう・まこと●医学博士。日本内科学会認定内科医、日本糖尿病学会認定糖尿病専門医。亀田総合病院、オックスフォード大学正研究員などを経て、2016年9月に開院。GLP-1に関する論文が国際科学雑誌に掲載されるなど、業績多数。国立滋賀医科大学の客員講師も務めている。2021年から洛和会音羽病院糖尿病内科部長代理、医療法人シゲトウクリニック理事長を兼務。
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