Oxfordで、GLP-1を研究していた糖尿病専門医が、肥満治療を考えます。
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肥満は病気なのか?

肥満が病気かどうかについては、古くから議論があるところです。

この議論の前に、病気とはどのような状態であるかを定義する必要があり、これが容易ではありません。

「本人が心身に不都合を感じ、改善を望むような状態」とした場合、高血圧や糖尿病などのような生活習慣病は、合併症が出るまで症状が出ず、不都合も生じにくいため、除外されてしまいます。特に、本人の主観が入るため、肥満に関しては不向きで、高度肥満の状態でも、本人が不都合を感じない場合は病気ではないことになります。

統計で95%を正常とし、残りの5%を異常(病気)とする方法でも、男性28.4%、女性18.7%(BMI25以上で計算)存在する肥満は病気ではないことになり、日本に数千万人単位で存在する高血圧、糖尿病などもやはり、病気でなくなってしまいます。血液検査でデータを読む際は、この方法をとっており、十分注意する必要があります(検査に異常がなくても病気だったり、その逆もある)。

それぞれの病気には「診断基準」が設定されており、肥満にも診断基準があることから、医学の世界では肥満は病気であると認識していると考えられます。日本だとBMI25以上が肥満ということになっていますが、この方法だと体脂肪率が考慮されないため、体脂肪率一桁で筋肉質な人も、内臓脂肪満載な人と同様に扱われてしまう危険があり、いろいろ問題があります。

 

治療可能かどうかはこの議論からそれますが、少し触れておきます。

禁煙外来というものがあり、喫煙者を病気と認識して治療しています。実際のところ、禁煙の成功率は数%と、自分でやってもまず失敗するのですが、禁煙外来に通うことで7割近い成功率となっています。つまり、タバコをやめたい人が医療を利用することで、より高い禁煙の成功率を得られるわけです。

ダイエットの成功率がどの程度かはわかりませんが、1年後に笑っていられるかという指標だと、恐らく禁煙と同様、数%程度と考えられます。生活習慣を変えるのは、並大抵ではありません。

今まで、肥満外来、ダイエット外来というのは、私自身も良いイメージはありませんでした。副作用が強烈で、依存性もあることから3か月しか使えないサノレックスでは、根本的な解決にはなりませんし、大幅なリバウンドで状態が悪化することもあります。他にもさまざまな肥満治療薬が開発されてきましたが、致死的な副作用が起こりうるなどの問題があり、とても使えたものではありませんでした。

GLP-1治療は費用が高いのが難点ですが、生理的ホルモンの補充なので安全性が高く、依存性もありません。理論上も脳のレベルで肥満の悪循環を断てることから、現時点で最も本質的な肥満治療薬と言って差し支えないでしょう。実際、何をやっても痩せなかった人にも有効だったという論文もあり、当院でも、どうしても痩せなかった人たちが大幅に体重を落としているのを目の当たりにしていると、肥満外来も禁煙外来のような位置づけになっていくであろうことを実感しています。

 

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この記事を書いた人
しげとう・まこと●医学博士。日本内科学会認定内科医、日本糖尿病学会認定糖尿病専門医。亀田総合病院、オックスフォード大学正研究員などを経て、2016年9月に開院。GLP-1に関する論文が国際科学雑誌に掲載されるなど、業績多数。国立滋賀医科大学の客員講師も務めている。2021年から洛和会音羽病院糖尿病内科部長代理、医療法人シゲトウクリニック理事長を兼務。
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