一般病院では、90歳くらいのかたが、10種類以上の薬を飲んでいることがよくあります。
「脳梗塞で寝たきりの89歳、誤嚥するので薬が飲めないため、鼻からチューブを入れて、そこから、降圧薬、抗血小板薬、スタチン、胃薬などなどを注入した方」に関わることがあり、いろいろ考えさせられました。
一度、脳梗塞や心筋梗塞を起こした人は、再度血管が詰まる可能性が高いため、血圧を厳しく管理し、抗血小板薬やスタチンを入れておくというのは、常識となっています。
しかし、ガイドラインに載っているからといって、客観的に余命がそれほど期待できない人に、フルコースで予防のための薬を入れるのは、ほとんど意味が無いように思います。
実際、スタチンの寿命延長効果は大したことありませんし、糖尿病治療薬(飲み薬)に至っては、SGLT2阻害薬以外は、明確に病気を予防できるという証拠はありません。http://bmjopen.bmj.com/content/5/9/e007118 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29320090
海外の医師のなかには、70歳以降に、一切の薬は使うべきではないという人もいます。
日本だと、70代はまだ若いですし、人によって体質は大きく異なりますので、個人的にはこれはちょっと言い過ぎかなとも思いますが、そうはいっても、バプテスト病院での診療では、特に80歳以上の方に対しては、スタチンなどは敢えて外して、薬の数を減らすことを優先しています。結果としても、特に、影響は出ていないように思います。
人はいずれ必ず死ぬ存在ですし、いつ死ぬかもわかりません。
医者になって17年、研究の期間を引いても10年以上やってきた肌感覚として、人間の死期というのは、ある程度、決まっているような気がしています。
いずれにしても、薬は使わないのが理想ですし、使うにしても、期待できる効果とデメリットをよく考えて使わないといけないと、あらためて思いました。
ちなみに、89歳の方は、すごく優秀な主治医にあたり、胃管を抜いて、全ての薬が中止となり、私としてもホッとしました。
その方の残りの時間が、安らかで、尊厳のあるものであることを、心から祈ります。