Oxfordで、GLP-1を研究していた糖尿病専門医が、肥満治療を考えます。
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運動はいつやればよいのか問題

 

よく、運動はいつやったらよいのでしょうか?

という質問をいただきます。

 

やらないよりやった方がいいのは間違いないですので、

あまり気にせずに、いつでもよいので動けるときに動いたらよいですよ

と答えることが多いです。

時間を制限してしまうと、運動しないという結果になりやすくなりますので。

 

とはいえ、ある程度の知識はあったほうが、効率的かつ安全に運動することができます。

 

最近では、時間運動学というものも研究されており、科学的にどの時間帯に運動するのがよいかが調べられています。

まだ歴史の浅い分野で、情報は不十分ですが、参考にはなるはずです。

 

生物の体には、食事、睡眠のタイミングを決めている「概日リズム」があります。

体内時計を持っているということです。

 

体内のホルモンバランスは時間によって大きく違います。

見つかっているだけで100種類以上あるホルモンが、お互い協力して体の状態をつくっています。

時間によって血中濃度が大きく動くホルモンは結構多く、有名なところで、午前中高くて午後低いコルチゾール、昼間低くて夜高いメラトニンがあります。

 

さて、本題の運動はいつやればよいかについてです。

大規模な研究はありませんが、午前中に運動するとよいという報告はいくつかあります。

 

午前中の運動により、

 

脂肪燃焼効果が高まる

認知機能向上、覚醒作用

睡眠の質の向上

糖尿病予防効果

 

が期待できます。

 

朝は意志力が消耗していないので習慣化しやすい点も大きいです。

それぞれについて解説します。

 

脂肪燃焼効果が高まる

空腹状態で有酸素運動を行うと、効率的に脂肪が利用されます。

空腹時に運動する場合、まず肝臓からのグリコーゲンが使われます。

これを使い切りそうになった時点で、脂肪がエネルギーとして利用されはじめます。

できるだけ長い空腹時間をとるためには、必然的に朝食前になります。

British Journal of Sports Nutritionの研究によれば、運動を朝食前に行うことで、午後や夜間に運動した場合と比較し、脂肪の利用が最大で20%上昇しています。

脂肪の分解が起こるとケトン体ができてくるので、食欲も抑えられます。

ただ、脂肪が利用される前に、たんぱく質がエネルギーとして利用されてしまう(異化作用)ので、注意が必要です。

空腹時にランニングすると、空腹でない時より筋肉のタンパク質分解量が2倍になることがわかっています。

エネルギーの利用の順番は、糖質→たんぱく質→脂質の 順番で起こるので、これは仕方がないところです。

筋肉量を減らしたくない、増やしたいという場合は、消化の良いものを軽く食べてから運動するとよいでしょう。

 

 

認知機能向上、覚醒作用

朝に強めの強度で運動することによって意思決定力や注意力、視覚的学習能力などの認知機能が高まることがわかっています。

運動は、それ自体、コルチゾール、テストステロンを増やします。

コルチゾールはストレスホルモンのイメージが強いですが、体に活力を与えるために重要なはたらきをしています。

肝臓における糖の新生作用や、脂肪組織における脂肪分解などの働きがあり、エネルギーを使う方向に作用します。

慢性的にコルチゾールが高いと脳機能が落ちてしまいますが、運動で短期的に上がる場合は、脳機能を高めてくれます。

脳を含む全身の覚醒を促すために生理的に午前中に多く分泌されるのですが、そこに運動を被せることで、より大きなピークを作り、濃度のメリハリをつくれます。

テストステロンは男女ともやる気などにも関係しており、朝高めておくことで1日の活動性を高めることができます。

睡眠の質の向上

朝、外で運動することで、睡眠が改善します。

研究でも、午前中に運動したほうが、午後から夕方に運動した人よりも入眠速度が速く、睡眠の質もよいことがわかっています。

睡眠に関係するメラトニンは、強い光を浴びてから15時間後に分泌されます。

概日リズムをリセットするうえでも合理的です。

 

糖尿病予防効果

運動は、筋肉、肝臓でインスリンを効きやすくします。

膵臓の負担が減るので、たくさん運動する人が糖尿病になりにくいのは言うまでもありません。

以前も説明しましたが、現代人は、糖の倉庫である肝臓がいつもグリコーゲンでいっぱいです。

いっぱい詰まった倉庫に糖を詰め込むためには、たくさんのインスリンが必要になります。

インスリン効果を高めるためには、糖の倉庫である肝臓にできるだけスキマを空けてやる必要があります。

特に、朝の空腹時に運動する場合、肝臓のグリコーゲンを一気に消費できます。

 

ただし、糖尿病になってしまった場合は、逆で、午後に運動する方がよいようです。

糖代謝に異常がある肥満男性を対象にした研究が2021年のPhysiological Reportsで報告されました。

午前中に運動した群と比べ、午後に運動した群でインスリンが効きやすくなり、空腹時血糖、体脂肪率も有意に改善しました。

糖尿病の状態が悪いと、午前中のコルチゾールが高い時間帯に運動すると、何も食べていなくても血糖が300mg/dl以上に急上昇することがあります。

食後であればなおさらです。

知らないうちに糖尿病になっている人(ものすごく多いです)が、急に朝、ジョギングをはじめると、心筋梗塞や脳卒中を起こして突然死するのは、おそらくこの現象が関係しているものと思われます。

 

少なくとも、糖代謝に異常がない場合であれば、朝の運動はお勧めできます。

ただ、状態、目的によってはリスクやデメリットがあるので、注意が必要です。

すくなくとも、血糖の検査は受けてからにしましょう。

 

午後の運動も、夕食時のインスリンが効きやすくなるのでメリットは大きいです。

私は自転車通勤により、午前、午後に運動できる仕組みにしています。

 

 

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この記事を書いた人
しげとう・まこと●医学博士。日本内科学会認定内科医、日本糖尿病学会認定糖尿病専門医。亀田総合病院、オックスフォード大学正研究員などを経て、2016年9月に開院。GLP-1に関する論文が国際科学雑誌に掲載されるなど、業績多数。国立滋賀医科大学の客員講師も務めている。2021年から洛和会音羽病院糖尿病内科部長代理、医療法人シゲトウクリニック理事長を兼務。
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