Oxfordで、GLP-1を研究していた糖尿病専門医が、肥満治療を考えます。
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座りすぎはなぜ悪い?

 

座る時間が長いと、いろいろ体に悪いということがわかってきました。

 

太りやすいというのは、いうまでもありません。

それ以上に、死亡率が大幅に上がります。

米国癌学会が行った調査では、一日6時間以上座る男性は、活動的な対象者より死亡率が48%も高くなりました。

どの研究を見ても、座る時間が長いと、死亡率が1.5倍になるので、現象としては確実です。

 

 

日本人は世界一座る時間が長い民族です。

早稲田大学の岡浩一朗教授によると、

日本人の成人が1日に座っている時間は約7時間。

40~64歳だと8〜9時間とさらに伸びます。

私を含め、10時間以上座っている人は多いはずです。

 

まず、座ることの何が問題なのかを整理してみましょう。

 

  • 糖尿病にかかりやすい

 

座っている間は、脚の筋肉の活動は無くなります。

全身の筋肉の7割は脚に集中しているので、この影響は大きいです。

筋肉を使わないと、インスリンの効果は落ちます。

合成できるインスリンには限界がありますので、血糖は上がりやすくなります。

特に、必要インスリン量が多いのが食後ですので、まず、食後血糖が上がってきます。

イギリスの調査によると、座る時間を1週間に12時間未満に抑えれば、糖尿病のリスクを75%低下させることがわかっています。

多くの人には実行不可能で、あまり参考にならないかもしれませんが。

 

2. 心臓、血管のトラブルが起きる

 

脚の筋肉は、第二の心臓とも呼ばれています。

重力があるので、血液は脚にたまりやすいです。

その血液を心臓に戻すのが、脚の筋肉です。

 

脚を使わないと、血液が心臓に戻らないので、心臓の筋肉に負担がかかります。

若いうちは良いですが、歳をとってから心不全になる可能性は上がります。

 

また、座っていると、脚の血管内にある赤血球が固まりやすくなります。

血液の流れは当然悪くなります。

どうしても血管は詰まりやすくなります。

まだ詳しく研究されていないものの、間違いなく心筋梗塞や狭心症、脳梗塞のリスクは上がります。

 

 

3. がんになりやすい

 

座っている時間が長いほどがんに罹りやすくなります。

ご存じの通り、毎日がん細胞はできていますが、免疫細胞によって除去されます。

血液の流れが悪いと、免疫細胞も動きにくくなります。

がん細胞が見逃される確率は上がります。

 

また、あまり知られていませんが、インスリンは、成長因子としての作用も持っています。

 

インスリンの効きが悪い

→インスリンがたくさん出る

→細胞が増えやすくなる

→がん細胞も育ちやすくなる

 

という要因も大きいのではないかと考えられます。

 

実際、ほとんど座りっぱなしだった人の癌死亡リスクは、活動性が高い人と比べ、82%も高くなっています。

 

特に、大腸がんと乳がんで、座りすぎの影響が大きくなっています。

女性は特に気をつけたいです。

 

4. 不安が強くなる

 

座る時間が長いと不安になりやすくなります。

これも、運動不足の要因が大きいです。

 

運動不足

→全身のミトコンドリア機能が低下

→脳細胞の機能も低下

→不安を抑制する機能が落ちてしまう

 

という流れはありそうです。

ミトコンドリアは、細胞のエネルギーを産生する器官です。

脳だけでなく、体全体の調子が悪くなるので、運動不足は避けたいものです。

 

座りすぎると脳に悪いことは間違いありません

 

 

死亡率が上がるのも当然です。

 

何とか対策する必要があります。

 

対策は、座る時間を短くするのが一番です。

イギリス政府も、1日に2時間でよいから立って過ごしなさいというガイドラインを出しています。

 

しかし、なかなかそうもいきません。

 

座る時間を1日6時間以下にするのは、週5日外来している私は絶対に不可能です。

外来だけで6時間超えることもあります。

さらに、書類づくりや会議で座るので、長い時は12時間以上座っているかもしれません。

クリニックでは、高さの調節ができ、立って仕事ができるスタンディングデスクを導入しています。

ただ、音羽病院の内容だと厳しいですね。

 

一説には、座りすぎの害を打ち消す方法は無いので、座らないようにするしかない、というものもあります。

 

しかし、有効な対策もわかってきています。

 

現時点では、

 

1日あたり約30~40分の中~強度の身体活動を行う

 

ことで、座りすぎの害を軽減できます。

 

ポイントは、中~強度の運動というところです。

具体的には、ジョギングやサイクリングなどの有酸素運動です。

運動習慣がないと、ジョギング10分ですら現実的ではありません。

 

これも、なかなかハードルは高いですね。

私は通勤にサイクリングを組み込んでいます。

運動習慣ゼロだったので、最初は体に応えました。

誰もができる方法ではありません。

 

30分座るごとに5分間立つ

 

というものもあります。

 

これだと、比較的実行しやすいですが、これも無理な人が多いかもしれません。

私の場合も、自分のクリニックなら可能ですが、音羽病院の外来ではできていません。

 

 

座っている時も、脚の筋肉を意識した運動をする

 

座りながら、ときどき、

 

かかとを上げる

足踏みをする

太ももを浮かす

数秒空気椅子する

 

などの動きを心掛けるだけでも、かなり違います。

時々、筋肉のポンプを使うことで、心臓の負担も減ります。

 

このくらいならできるのではないでしょうか?

落ち着きがない感じになりますが。

 

とにかく、全く動かない時間をできるだけ細切れにすることで、血液の流れが滞らないようにしたいところです。

 

最後に、細切れに家事をするのもお勧めです。

ちょっとした掃除をするだけでも、脚の筋肉を動かせます。

料理は座っていてはできません。

買い物も、買いだめせずに頻繁に行った方が、運動量が増えます。

新鮮な食材も手に入ります。

 

料理しなくてよく、買いだめが効く加工食品は、この意味でも悪いです。

 

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この記事を書いた人
しげとう・まこと●医学博士。日本内科学会認定内科医、日本糖尿病学会認定糖尿病専門医。亀田総合病院、オックスフォード大学正研究員などを経て、2016年9月に開院。GLP-1に関する論文が国際科学雑誌に掲載されるなど、業績多数。国立滋賀医科大学の客員講師も務めている。2021年から洛和会音羽病院糖尿病内科部長代理、医療法人シゲトウクリニック理事長を兼務。
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